ゼロから学ぶ「ナーロッパ」とは?【ファンタジー用語・設定解説】

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「ナーロッパ」について解説

ヨーロッパの風景1_フランス ストラスブールの街並み

 ファンタジー用語・設定解説!
 今回は、「ナーロッパ」についてご紹介します

もくじ

「ナーロッパ」について解説

「ナーロッパ」とは?

 ナーロッパとは、なろう系の小説によく出てくる、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界の総称です

「なろう系」+
「中世ヨーロッパ風ファンタジー世界」
=『ナーロッパ』 

「なろう系」+「中世ヨーロッパ風ファンタジー世界」 = 『ナーロッパ』 

 もう少し詳しく説明すると、ファンタジー創作、特に小説投稿サイト『小説家になろう』(以下、なろう)界隈で用いられる、中世ヨーロッパ風ではあるが、その実態として史実の中世ヨーロッパとは似て非なる世界の通称 となります。

 「日本人がなんとなく想定している、中世ヨーロッパ的な剣と魔法のファンタジーな世界」を表す言葉ともいえるでしょう。

 なお、便宜上「なろう系」とくくっていますが、もちろん「小説家になろう」以外でもファンタジー創作はたくさん発表されていますので、発表媒体にかかわらず「ナーロッパ」と呼ばれる場合があります。

 「なろう系」を筆頭に、異世界転移・転生ものの移動先として、数多くの作品にこういった中世ヨーロッパ風な世界観が頻出したことから、「なろう」と「ヨーロッパ」を組み合わせて「ナーロッパ」と呼ばれるようになりました

否定的な使われ方もしているのでご注意を

 また、ナーロッパという言葉には、否定的なニュアンスを持った蔑称 としての意味も含まれています。

 この言葉はもともと、匿名ネット掲示板「5ちゃんねる」で2017年頃に使われ始めます。当時の文脈は、なろう系作品の「粗製乱造とワンパターンな共通点」、「オリジナリティの無さ」といった負の面に対する皮肉を交えたものでした。そうした背景から現在でも、なろう系にありがちな”設定の粗さ”や、ご都合主義的な部分を揶揄って使用されることがあります。

 こういった背景から作者への感想やコメントでこの言葉を使う場合や、ファンアート等に「ナーロッパ」というタグをつけることは、ある種の攻撃的な行為と受け取られる可能性があります。作者自身が自らつけている場合でない限り、安易に使用しないように気を付けたほうがよいでしょう。

そこからの「ナーロッパ」一般名詞化

 前章で、ナーロッパは否定的なニュアンスで使用されることがあると説明しました。しかし、近年では否定的な意味を含まない「一般名詞」的な使用での認知が広まってきており、むしろこちらの側面が強調されるようになってきています。

 それが、「RPGやファンタジー小説にでてくるヨーロッパのようでヨーロッパでない異世界」を表す言葉として使用される場合です。

 特に否定的な意味を含まない、「ファンタジーってこういう世界観だよね!」と、共通の認識を示すための名詞として使用される形です。

 ファンタジー世界の一連のふわっとした世界観に関しては、昔から日本人の中になんとなく共通的に存在していましたが、これを表現する名詞はありませんでした。そこに「ナーロッパ」という単語がうまくハマり、共通認識として使われるようになってきているのです。(当サイトでも、ナーロッパという単語を使用する場合はこちらの用法で使用しております。)

【補足】もっと詳しく解説!

 「剣と魔法のファンタジー世界」「中世ヨーロッパ風異世界」という概念は、いわゆる「なろう系」が発祥するよりもはるか以前、1980年代にはすでに存在していました。それは「ドラゴンクエスト」(RPG・1986年-) や「ロードス島戦記」(小説・1988年-) 、「スレイヤーズ」(小説・1989年-) の例を見れば明らかです。

 さらに時代を遡ると、世界最初のRPGと言われる「Dungeons & Dragon (通称:D&D)」(TRPG・1974年-) や、ファンタジー作品の原点とも言われる、J・R・R・トールキン著「ホビットの冒険」(小説・1937年-)「指輪物語」(小説・1954年-) といった、今なお輝く名作が存在しています。
 これらの作品によって、ファンタジー世界の基礎が築かれ、その世界観の原型が形成されてきたことが分かります。

 そして、上記の作品が必ずしも、現実の中世ヨーロッパの史実に忠実か?というと、そうでもありません。確かに、剣や鎧、封建制度、風土といった要素は中世ヨーロッパをベースにしていることが考えられますが、それらはあくまで舞台設定のための「素材」に過ぎません。

 特に、RPGやファンタジー小説では、現実の歴史や文化を着想元としつつも、それを大きく脚色して独自の世界観を作り上げています。こういったことから、「中世ヨーロッパ風」の世界観は、現実の中世ヨーロッパとは大きく異なり、独自の世界観として確立されています。

 こうした傾向は「なろう系」と呼ばれる作品群でも引き継がれており、そこにさらにゲーム的な要素や、転生・転移要素、スキルシステムなどが加わり、より現代的な感覚でファンタジー世界が表現されるようになりました。

 この一連の世界観に対して特に名前がなかったところに、共通認識的ニュアンスを持ってピタッとハマったのが「ナーロッパ」という言葉と言えます。

「ナーロッパ」の世界観

 ナーロッパを含むファンタジーの世界観では、史実の各時代から「いいとこどり」しているケースが多く見られます。たとえば、中世の騎士や城が登場する一方で、現代的な衛生観念や暮らしやすさが取り入れられている場合などがあげられます。

 こうした点について「中世といいつつ、中世ではないじゃないか?」という指摘もありますが、これは一概に悪いこととも言えません。

 主人公とヒロインの出会いのシーンを想像してみてください。もしヒロインが中世特有の壊滅的な衛生環境を反映し、とても不潔で酸っぱい異臭を放っていたとしたら、ロマンチックな展開にも感情移入しづらくなるでしょう。
 (もちろん、逆にそのようなリアルさを物語のテーマに取り入れるという選択肢もありますが、これはかなりニッチな手法となりそうです)

 このように、史実に忠実すぎると、かえってストーリーに入り込めない場合も考えられます。

 ファンタジー作品では史実に沿ったリアリティと、読者が物語に共感しやすい環境を書くことのバランスが重要となってきます。ナーロッパの「いいとこどり」の世界観は、読者が親しみやすさを感じられるよう工夫された結果といえるでしょう。

 ただし、単に「町が綺麗」「生活が便利」と描くだけでは説得力に欠け、設定が浅く感じられます。
 なぜその世界で清潔さや便利さが実現しているのか、具体的な仕組みや設定を描く部分は筆者の腕の見せ所と言えます。
 それぞれの作品がどのように説得力を持たせているかに注目してみると、さらに楽しみ方が広がるかもしれません。

ご定番の「ナーロッパ」設定

 以下に、なろう系でよく見られる設定や世界観をいくつかリストアップしてみました。(すべての作品に当てはまるというものではありませんのでご参考までに。一覧は今後も追記していく予定です)

1.「剣と魔法の世界」

 まずは、ファンタジーと言えばこれ!という感じで「剣と魔法の世界」です。

 騎士や王やお姫様が登場し、冒険者や魔法使いが活躍するRPG風のファンタジー世界です。 日本界隈では、さらに学園モノや日常系、ホームドラマやラブコメの要素を組み合わせたものも一般的で、主人公が強さに特化した俺TUEEE系、知識で無双する知識チート系なども有名です。

 敵対モンスターとして「魔物」や「魔獣」といった人類を害する生物が存在し、人類は剣や弓といった原始的な武器、または魔法を駆使してこれらに対抗しています。銃などの火器はあまり登場しないのが特徴です(主人公が銃で無双するというパターンは存在)。
 また、魔物を討伐すると、魔力の結晶である石のようなもの(名称は作品によって様々。魔結晶など)を落とす、というのもよくある設定です。

中世の城壁と見張りの塔
中世の城壁と見張りの塔

2.「ステータス」の存在

 ゲーム的な「レベル」や「スキル」が実際に存在する。または、戦闘力やHP(体力)などの「ステータス」が数値として確認できるということがあります。(例:レベルやHP、MPなどの載ったウィンドウが「ステータスオープン!」の掛け声とともに開き確認できる。など)

 なお、ステータスの存在は、ご都合主義的と言われる筆頭ではありますが、これによって敵・味方の強さの説明や、キャラクターの成長を分かりやすくかつ簡潔に示すことができるため、一つの発明とも言えるでしょう。RPGゲームを色濃く受け継いだ要素と言えます。

3.「人」以外の人類の存在

 こちらもファンタジーと言えばこれ!という要素であるかと思いますが、多様な種族が登場します。

 種族にスポットが当たる場合、それぞれの特性に基づくストーリーや、種族間における差別問題などが物語上扱われることが多い印象です。なろう系だと、「ヒロインの差別問題解決⇒主人公ハーレム入り~」という流れも割と多い印象です。

 以下、ファンタジーの主な種族を紹介します(かなり抜粋しています)。

種族名概要
人間 (人族)能力的にはバランスの取れた平均型。
繁殖力が高く、広範囲に繁栄しているというパターンが多い。他種族と区別するため人族、ヒューマンと呼ばれたりする。
獣人動物と人間が融合したような種族。
優れた戦闘能力と敏捷性を持つことが多い。寿命は作品によって人族より短かったり長かったり。犬人族、猫人族など多種多様。
エルフ一般的に寿命がとても長い種族。
容姿は美しく、耳が長く尖っているのが特徴。
優れた魔法の能力を持ち、森や自然と深い関係を持つ。繁殖力は低く個体数が少ない場合が多い。基本は色白で、色黒の種族はダークエルフと呼ばれる。
ドワーフ小柄で力強く、鍛冶や鉱石採掘に長けている。地下に住むことが多く、頑固な性格の持ち主。寿命はエルフほどではないが、人族より長い場合が多い。

4.「中世ヨーロッパ的な風景」

 前章で、ナーロッパは実際の中世ヨーロッパとは全く異なる、と書きました。
ではどこにその要素があるのかと言いますと 中世ヨーロッパ的な風景。これにつきます。

 広大な森林、その闇の中に輝く星々のように点在する人間の都市。都市と都市を結ぶか細い街道。レンガで組まれた街並み、木造の村。
 こうした産業革命前の豊かな自然と人々の原始的な暮らしが織りなす風景が、ファンタジー世界の原風景となっています。

ドイツ_ニュルンベルク_秋
ヨーロッパの風景:ドイツ ニュルンベルク 秋
ヨーロッパの風景_タリン旧市街
ヨーロッパの風景:エストニア タリン旧市街

5.「冒険者」の存在

 「冒険者」及び「冒険者ギルド」が登場します。

 薬草などの採集や探索、モンスターの討伐や護衛といった体を張った仕事を請け負うことが多く、探索対象である「ダンジョン」が登場する作品も数多く存在します。冒険者は、身分に関係なくなれる職業、かつ、冒険者になれば一定の身分が保証されるといった設定がよく見られます。

6.「衛生観念」が現代レベルに発達している

 ナーロッパでは、中世の時代背景を考えるとありえないような、かなりの清潔さを実現している町や都市が出てきます。
 その衛生観念は現代日本に迫るレベルです。(そこにいたる設定は作品によってさまざまですが、比較的多く見られる設定の一例として「下水はスライムに処理させている」があります)

 実際の中世ヨーロッパでは、中世末期まで上水道・下水道ともにまともに整備されておらず、道路や広場は糞便で汚れ放題だったといわれています。
 さらに当時のキリスト教の教えでは、肉体をさらす入浴は罪深いとされ、ローマ時代にはあった入浴の習慣も消え失せていました。(かわりに体臭をごまかすために香水が発展しました)
 また、水が安心して飲めないため消毒効果のあるアルコールの入ったエール(ビール)が好まれて飲まれていました。

7.「王国」「帝国」「宗教国家」が登場する

 設定は作品によって様々ですが統治のスタイルのテンプレートとして、「王国」「帝国」「宗教国家」というパターンの国が出てくることが多いです。  

国家形態概要備考
王国王や女王が君主として治める国家。貴族がそれぞれの領地を支配する封建制度であることが多い。実際の中世ヨーロッパも封建社会です。・主人公が関わるが多い。
・貴族の腐敗や、王族派と貴族派の派閥争いが繰り広げられる展開が多数。
帝国皇帝が絶対的な権力を握っていて、軍事力が強い。実在のローマ帝国がモデルとなっている場合が多いと思われる。・軍事技術が発展している
・他国との戦争や侵略が物語の軸となる。
宗教国家信仰を国家の中心とし、神官や聖職者が国家の運営に大きく関与する。「聖女」が存在し、物語の重要な要素になるケースも多い。・魔法技術が発展している。
・国名は、〇〇聖国、〇〇聖王国、〇〇法国、など。

 なお、作中での王政や制度の穴の多さ、設定のずさんさをナーロッパの特徴に含める意見もありますが、ここは作者の手腕の見せ所なのでナーロッパの概念とは別と考えております。

8.「宗教」に対するシリアスさの違い

 ナーロッパでは、キリスト教がモデルっぽいのに多神教だったりと設定はまちまちです。
 神がステータスを司っていたり、実際に登場して主人公にチート能力を授けるパターンもあり、人間味の強い神が多く登場します(この素晴らしい世界に祝福を!の「アクア」などがその代表でしょうか)。このように、全体的に宗教に関する雰囲気がふわっとしていることが多いです。

 実際の中世ヨーロッパでは、宗教が近代と比べても非常に大きな影響力を持っており、信仰とは非常にシリアスなものでした。
 ナーロッパを含むJRPG風のファンタジー世界全般と、実際の中世ヨーロッパとの最大のギャップは、この宗教観であるといわれています。

教会の画像
ヨーロッパの教会:フランス ノートルダム大聖堂 外観
教会の画像_内装
ヨーロッパの教会:フランス ノートルダム大聖堂 内観

創作のテンプレートとしての「ナーロッパ」

 ニコニコ大百科「ナーロッパ」の定義をお借りすると、「気軽な創作に極めて便利な世界観の概念」と記載されています。
 なろう系を筆頭として人気の高い、異世界転生・転移もの。その舞台となる剣と魔法のファンタジー世界としてのナーロッパは、小説を書く側にとっても、一つのテンプレートとなっているといえます。

テンプレートを使用するメリット

 テンプレートとは「定型」や「ひな形」を表す言葉です。
 テンプレートを使用すると、小説を創作する際に基盤となる要素がすでに整っているため、作者はゼロから詳細な設定を考える必要がなくなります。この点が「気軽な創作に極めて便利」と称される部分だと思われます。

 ナーロッパの世界観では、中世ヨーロッパ風の王国や騎士、冒険者、魔法、モンスター、貴族の階級制度、魔法学園、といった要素が定番として書かれることが多く、すでに共通認識として存在しています。そのため、作者は物語の進行に集中しやすくなります。
 こうしたテンプレートの利用は、特に執筆を始めたばかりの初心者にとって、ストーリー作りのハードルを低くする大きな利点があります。

 また、読者の視点からみてもナーロッパの定番要素にはすでに共通認識があるため、それを期待して読むことができます。これにより、物語の背景や設定の理解がスムーズに進みます。

 このように、細かな設定、説明をしなくても作者と読者で世界観を共有できるというのが最大の利点でしょう。

テンプレートを使用するデメリット

 ただし、テンプレートを使うことには注意点もあります。

 既存のパターンをそのまま利用することで、新鮮さや独自性に欠けてしまう可能性があります。また、テンプレートがあるからといって、適当な設定でも許されるという訳ではありません
 読者にとっては似たような設定の物語が多くなったり雑な設定が増えることで、物語が陳腐化する危険性があります。実際このような負の側面こそ、ナーロッパが否定的な意味で使用される最大の要因となっています。

最後に

 テンプレートを使用する利点は大きいですが、
 上記のデメリットを考えるとナーロッパが表面的なフォーマットとしてのみ使用されてしまっていることを示唆しているといえます。

 もちろん、創作は自由であり、どういった解釈でも問題はありません。 しかし、ストーリーにリアリティや深みを持たせるうえで、ある程度は史実に基づくことは大きな力となります
 また、史実という素材をもとに発想を広げることで、オリジナリティを育むことにもつながります

 このサイトでは、ナーロッパの基礎となっている中世ヨーロッパや関連する歴史的背景を掘り下げ、より深みのあるファンタジー世界を作り出すための情報を提供していきたいと考えています。

つまり、 創作においては
『ファンタジー異世界の創作に便利なテンプレート』 = 『ナーロッパ』 
と言えますが、
適当に使用するのはもったいないです。

このサイトでは、史実についての知識をまとめ、
より豊かで魅力的な世界観を築けるようサポートしていくための記事を作成していく予定です。

以上です、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

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